血圧は心臓から送り出された血液が血管の壁を押す圧力のことで、この圧力が高くなることを高血圧といいます。血管の壁はゴムホースのように弾力性がありますが、高い圧力がかかり続けると徐々に硬くなり、動脈硬化症を引き起こします。血圧は一般的に加齢とともに高くなりやすく、90%以上の人が生涯のうちに高血圧症になるという観察研究結果があるほど、身近な病気です。
高血圧が心臓病や脳梗塞の原因であることが示されたのは50年ほど前で、アメリカのフラミンガムという町の住民を追跡観察したフラミンガム研究によって明らかになりました。以後、高血圧は心臓病や脳梗塞の予防のための重要な治療ターゲットとして多くの研究が行われ、その研究結果から目標値は徐々に厳しくなっています。高血圧症は糖尿病や脂質異常症と並ぶ3大生活習慣病であり、放置していると心筋梗塞や脳卒中、慢性腎臓病など重大な病気の原因となるため、早めに発見し治療を開始することが重要です。また、日本人は塩分摂取量が多い傾向にあり、食事療法も治療の大事な柱の一つです。
高血圧の診断基準と目標値
血圧計によって測定した血圧が基準を超えると高血圧症の診断となります。血圧は一日の中でも変動しますので、起きてすぐなど、決まったタイミングで測ることが大事です。また、病院など緊張が高まる場所でも血圧は高くなりやすいため、自宅での測定と病院での測定で診断基準が変わっています。一方で、高血圧学会からはすべての高血圧患者さんの降圧目標値(理想的な血圧値)として、診断基準よりも10mmHg低い数値がガイドラインに記載されています。
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診察室血圧(病院で測った血圧) |
家庭血圧 (自宅で測った血圧) |
| 診断基準値
| 140/90mmHg以上 |
135/85mmHg以上 |
| 降圧目標値 |
130/80mmHg未満 |
125/75mmHg未満 |
高血圧が起こる仕組み
血圧は心臓が血液を送り出す力が強くなるほど高くなりやすくなります。先ほど血管の壁をゴムホースと例えましたが、ゴム風船を膨らませることをイメージしてもらう方がいいかもしれません。風船のゴムが柔らかい(=弾力性がある)と簡単に膨らませることができますが、ゴムが硬い(=弾力性がない)と膨らませるために一生懸命息を吹き込まないといけません。血管の壁が硬くなって弾力性がなくなると、血液を送り込むために心臓はより多くの力が必要になるため、血圧が高くなります。すなわち、血管の壁の弾力性が失われ硬くなる=動脈硬化が高血圧症の原因となります。逆に、血圧が高いことも動脈硬化を進めるため、この負の連鎖を早めに断ち切ることが大事です。
高血圧を引き起こす原因
高血圧を引き起こす原因には下記のようなものが挙げられます。
遺伝的な要因
高血圧症そのものの遺伝子はありませんが、高血圧になりやすい体質の遺伝子はあるようです。例えば、両親ともに高血圧の場合、子供が高血圧になる確率は50%以上、両親のどちらかが高血圧の場合、子供が高血圧になる確率は30%以上という報告もあります。また、血圧には塩分摂取量が深く関わっており、家庭の味付けによる「食事の好み」も広い意味では遺伝といえるかもしれません。高血圧の原因のうち、遺伝的要因は25%~60%程度、残りの40%~75%は塩分の過剰摂取などの生活習慣(環境要因)といわれています。
塩分摂取過剰
生活習慣などの環境要因の中で、高血圧に影響する筆頭が塩分摂取過剰です。動物は進化の過程で生活の場を海から陸にしたことで、塩分や水分が不足しがちな環境になったため、塩分を体の中に保持する仕組みを作りました。人間の血液の塩分濃度は0.9%程度に保たれています。塩分を摂りすぎると、血液の塩分濃度を保つために水分も血液内にため込むため、血液量(=心臓の仕事量)が増えてしまい、血圧が上昇することになります。一日の塩分摂取量の目標値はWHO(世界保健機構)からは5g未満、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では男性 7.5g未満、女性 6.5g未満とされていますが、令和6年度の「国民健康・栄養調査」では食塩摂取量の平均値は男性 10.5g、女性 8.9gと推測されており、まだまだ塩分摂取量が多い状況です。
カリウムを多く含む野菜や果物の摂取不足
血液中の余分な塩分(ナトリウム)は腎臓から尿中に排出されますが、その際にカリウムが重要な役割を果たします。そのため、カリウムが不足していると余分な塩分(ナトリウム)が十分に排出されなくなります。カリウムは野菜や果物に多く含まれるので、高血圧の人には摂取が推奨されます。ただし、腎臓が悪い人はカリウムが血液中に過剰に溜まってしまいますし、果物は糖分も多く含みますので、適切な摂取目標は栄養士との話し合いが必要になります。
喫煙習慣
タバコの中のニコチンが血圧を上げるホルモンを分泌させたり、血液中の活性酸素を増やして動脈硬化を促進するなどして、血圧を上昇させます。加熱式・電子タバコにもニコチンが含まれていることがあります。また、ニコチンを含まない加熱式・電子タバコでも、その他の化学物質が影響して血圧を上げることがあります。加熱式・電子タバコも含めて、禁煙が望ましいです。
アルコールの過剰摂取
アルコールが体内で分解される際に「アセトアルデヒド」という物質が作られます。このアセトアルデヒドは血管を広げる作用があるため、一時的に血圧が下がります。その後、体は血圧を元に戻そうとするため、交感神経を刺激して血圧を上昇させてしまいます。さらに、アルコール摂取が過剰・長期習慣化すると、血管の収縮刺激性が高まり、お酒を飲まない時でも血圧が上昇しやすくなってしまいます。
加えて、アルコールは食欲を高めてしまい、塩分の多いおつまみや高カロリーの料理を摂りがちになります。また、アルコールは血液中の中性脂肪を増やしてしまうため、動脈硬化が起こりやすい環境になってしまいます。少量のアルコールは「百薬の長」になりえますが、呑みすぎには注意が必要です。
肥満・運動不足
肥満の背景に高血圧や糖尿病、脂質異常症があることも多いですが、肥満そのものも動脈硬化の原因となります。脂肪細胞から血圧を上げたり動脈硬化を促進したりする、サイトカインという悪玉物質が分泌されるためです。また、血液の量は体重に比例するため、肥満になると血液量が増えてしまい、心臓に負担がかかってしまいます。運動不足は血行が悪くなったり、カロリー消費量が減って糖代謝や脂質代謝が悪くなったりすることで、動脈硬化の進行を促進し、血圧が上がりやすくなります。
精神的ストレス
精神的なストレスは交感神経を活性化し、血圧が上がる原因となります。
加齢
心臓は一日に約10万回拍動します。血管は心臓が拍動する度に圧を受けているため、何十年と圧を受けるとどうしても血管の弾力性が失われてきます。年齢とともに血圧が上がることは生体としての摂理ではありますが、減塩や糖尿病や脂質異常症などのその他の疾患をしっかりとコントロールすることで、血圧の上昇具合を抑えることは可能です。
二次性高血圧症
ホルモンの異常や薬の副作用などで血圧が上昇していることを二次性高血圧症と呼びます。高血圧を初めて指摘された際には、この二次性高血圧症ではないか、検査や鑑別をすることが重要になります。
- 原発性アルドステロン症:副腎という臓器からアルドステロンという血圧を上げるホルモンが過剰に分泌される、二次性高血圧症で最も多い原因です。
- 腎実質性高血圧:慢性腎不全や腎炎など、腎臓自体の病気によって起こります。
- 腎血管性高血圧:腎臓へ血液を送る動脈が、動脈硬化などで狭くなる病気です。
- 睡眠時無呼吸症候群:睡眠中の無呼吸が血液の酸素濃度を下げるため、血圧を上げて一度に多くの酸素を運ぼうとしてしまいます。
- 内分泌性高血圧:クッシング症候群や褐色細胞腫など、ホルモンの異常によって血圧が上がってしまいます。
- 薬剤誘発性高血圧:解熱鎮痛薬(ロキソニンなど)や甘草を含む漢方薬、ステロイドなどが血圧上昇の原因となることがあります。
高血圧の治療薬
高血圧の治療薬は主に4種類が使われてきましたが、新しいタイプの薬も近年加わり、厳しくなりつつある治療目標も達成可能なことが増えてきました。なお、「一度飲み始めると一生飲まないといけない」と思われる方もいますが、減塩や運動習慣などで血圧が改善すれば、薬の量を減らしたり、中止したりすることは可能です。高血圧の放置や自己判断での中止が最も危険ですので、医師と相談しながら治療計画を立てることが大事です。
カルシウム拮抗薬
日本で最も使われているタイプの薬です。心臓や血管が収縮する際にカルシウムが細胞内に取り込まれますが、このカルシウムの取り込みを阻害して、血管や心筋を弛緩させることで血圧を下げます。狭心症や頻脈、心臓が大きくなっている方などにも使われます。
副作用として足の浮腫みや顔の火照り、動悸などがありますが、軽いことがほとんどです。
ARB/ACE阻害薬
カルシウム拮抗薬に次いで処方数が多い降圧薬です。アンジオテンシンⅡという血管を収縮させるホルモンの働きを阻害して血管を広げます。心臓や腎臓を守る効果もあることが報告されていて、心不全や心筋梗塞後、慢性腎臓病を合併している高血圧の患者さんによく使われます。
副作用として高カリウム血症があるため、内服している方は定期的な血液検査が推奨されます。ACE阻害薬は空咳の副作用も有名です。一方で、空咳の副作用を逆手にとって、高齢者の誤嚥性肺炎の予防効果が期待されることもあります。
サイアザイド系利尿薬
余分な塩分と水分を尿として体外に排出させ、血圧を下げる薬です。安価で安全性も高く、体内の水分量が減るので、浮腫みがある高血圧の患者さんなどにもよく使われます。塩分を排出するので、塩分摂取が多く、塩分による血圧上昇をきたしやすい日本人に適した薬剤です。単独での血圧低下作用はそれほど強くないため、カルシウム拮抗薬やARBなどと一緒に処方されるケースが多いです。
副作用として低カリウム血症があります。また、糖尿病や高尿酸血症を悪化させることもあるため、内服している方は定期的な血液検査が推奨されます。
β遮断薬
心臓の拍動を落ち着かせたり、心臓の収縮力を和らげたりして血圧を下げる薬です。交感神経が活発な若い方や、心不全を合併している高血圧の患者さんに用いられます。頻脈や狭心症を合併している方にもよい適応となります。
一方、糖尿病や脂質異常症に対して悪影響を与える可能性があります。また、気管支喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患、肺気腫と以前は言っていました)の方には逆の作用であるβ刺激薬が治療薬として用いられます。そのため、気管支喘息やCOPDの患者さんへの使用は慎重になる必要があります。
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)
副腎から分泌されるアルドステロンという塩分と水分を体内に貯めこもうとするホルモンの働きを抑える薬で、利尿薬の一種になります。古くから用いられている降圧薬の一つですが、女性ホルモン様の働きがあるために男性患者では女性化乳房などの副作用が問題でした。近年、この副作用を克服したタイプの薬が発売され、降圧効果も強くなっているため、注目されている薬剤の一つです。
ARNI
ARBの作用に加えて、心臓を保護するホルモンを維持する作用を付け加えた、新しいタイプの薬です。心臓を守る良いホルモンを増やし、心臓に負担をかける悪いホルモンを抑えるため、ARBなどよりも血圧を下げる効果が高く、また、心不全患者さんの予後を改善することも報告されています。ただし、高血圧症のみの患者さんに最初から使うことは保険上で認められておらず、他の降圧薬で効果不十分な場合に検討されます。心不全を合併している方には積極的に用いられます。
副作用はARBと同じく高カリウム血症が挙げられます。また、服用初期に一時的に腎臓の数字が悪くなることがあります。
高血圧症は治療薬が確立されており、さらに近年は降圧効果の強い薬が登場したことで血圧を下げることは容易になりました。しかし、飲む薬の数が増えすぎるのは煩わしいですし、飲み合わせや副作用の問題もあります。
当院では動脈硬化症専門医・総合内科専門医の医師が、
その他の生活習慣病も含めて総合的な治療内容を考えていきます。
また、管理栄養士による減塩や食事指導も行い、
できるだけ薬に頼らない高血圧治療を目指していきます。