糖尿病は血液中の糖分(血糖値)が高くなっている状態を指し、脂質異常症などと同じく、自覚症状はほとんどない病気です。しかし、血糖値が高い状態が続くと、全身の血管や神経を痛めつけ、動脈硬化症や神経障害、目や腎臓の病気(合併症)を引き起こしてしまうため、できるだけ早期からの治療が必要です。
「糖尿」という言葉から、尿に糖分が出ることが糖尿病と思われる方もいますが、実際には血糖値が上がることが先で、余分な血糖を尿に捨てるため、尿に糖分が含まれるようになります。また、体質的に血糖値が正常でも尿に糖分が出る方もいます。
糖尿病は脂質異常症や高血圧症と同じく、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患に対するリスク因子です。しっかりと治療を行うことで、心筋梗塞や脳梗塞を予防することが健康長寿に重要です。
糖尿病の診断
糖尿病の診断は必ず血液検査が必要になります。①か②に当てはまれば糖尿病と診断されます。
① 糖尿病型が2回確認される(1回は必ず血糖値で確認)
| 糖尿病型 |
血糖値 |
空腹時血糖値が126mg/dL以上 |
| ブドウ糖負荷試験の2時間血糖値が200mg/dL以上 |
| 随時(空腹時以外)の血糖値が200mg/dL以上 |
| HbA1c |
6.5%以上 |
② 血糖値が糖尿病型であることを1回+次の慢性的な高血糖状態の症状が存在する
| 糖尿病の典型的な症状 |
口渇(喉が乾きやすい)
多飲(喉が渇くので水分を大量に飲む)
多尿(水分の大量摂取や尿糖の影響で尿量が増える)
体重減少 |
| 確実な糖尿病網膜症がある |
| 眼科で眼底検査をして診断 |
(糖尿病診療ガイドライン2024より)
また、「前糖尿病」や「糖尿病予備軍」という言葉をご存知の方もいらっしゃるかもしれません。医学的には「境界型」といいます。境界型は「空腹時高血糖型」「食後高血糖型」「混合型」の3パターンがあります。
食後高血糖型は空腹で受ける健診では見逃されることが多いため、糖負荷試験や食後採血、HbA1cとの組み合わせなどが診断の助けになります。
糖尿病が起こる仕組み
診断基準は先ほど示しましたが、なぜ血糖値が上がるのでしょうか?人を含めて動物の体内の血糖調整は主にインスリンとグルカゴンというホルモンで行われています。血糖値に関わる主なホルモンは下記になります。
人では膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンで、血糖値を下げる唯一のホルモンです。膵臓からのインスリン分泌量が少なくなったり、インスリンの効き目が悪くなったりすると血糖値が上昇します。
人では膵臓のα細胞から分泌されるホルモンです。肝臓に働きかけて、肝臓内に蓄えられているグリコーゲンを分解してブドウ糖を血中に放出させ、血糖値を上昇させます。
副腎皮質から分泌されるホルモンで、『ステロイド』という名前の方が聞きなじみがあるかもしれません。ストレスなどで交感神経が昂った際に分泌が高まり、たんぱく質や脂肪の代謝を促進して糖新生(ブドウ糖の合成)を促進します。
インスリン分泌低下型とインスリン抵抗性型について
体内ではこれらのホルモンが絶妙なバランスで血糖値を正常範囲内(おおよそ70~100mg/dL)に調整しています。しかし、甘いものを食べすぎたり、カロリー摂取量が多くなりすぎたりすると、上がってくる血糖値を下げようとして膵臓のβ細胞が頑張ってインスリンをたくさん放出します。頑張りすぎたβ細胞は死んでしまうため、だんだんと膵臓のインスリンを出す能力が低くなり、インスリン分泌量が減ってしまいます。そうすると上がった血糖値を下げることができなくなり、血糖値が上昇→糖尿病状態となってしまいます。これをインスリン分泌低下型と呼びます。現状では失われたβ細胞を増やす治療法はないため、β細胞が減りすぎるとインスリンを補充する(=インスリン注射)治療が必要不可欠になります。
一方、カロリーの摂りすぎや運動不足などで体重が増えてくると、内臓脂肪も増えてきます。内臓脂肪が増えるとインスリンの効き目を良くする物質(アディポネクチン)が減り、インスリンの働きを邪魔する物質(TNF-αなどの炎症性サイトカインや遊離脂肪酸)が増え、インスリンがあっても血糖が下がらない状態になります。これをインスリン抵抗性型と呼びます。
日本人は元々インスリンを分泌する能力が低い人種とされており、インスリン分泌低下型の糖尿病が多いです。瘦せていても糖尿病と診断される方は、このインスリン分泌低下型がほとんどです。一方、最近は食生活の欧米化に伴い、インスリン抵抗性型の糖尿病も増えてきています。血糖の異常を指摘された際、インスリン分泌低下型なのか、インスリン抵抗性型なのかを検査で調べることで、治療内容も変わってきます。
糖尿病診療でよく用いる検査項目
空腹時血糖値
食事を食べる前の空腹状態での血糖値です。健診等で厳密に「空腹時」とする場合は8~10時間の絶食とされます。正常状態では食後2時間ほどで血糖値は空腹時と同程度まで下がるため、午前中遅めや午後からの検査の場合、朝食以降に絶食としてもらうこともあります。空腹時血糖値の基準値は110mg/dL未満です。
食後血糖値
食事後は血糖値が上昇し、インスリンの働きでまた下がることを繰り返します。正常では食事をしてから2時間後の血糖値は140mg/dL未満となります。
HbA1c
血糖値は常に変動しているため、血液検査を行った時点の血糖値だけで血糖コントロールを判断することは困難です。HbA1cは貧血などの評価となるヘモグロビンに糖(ブドウ糖)がくっついている割合を調べる検査で、過去1~2カ月の血糖値の平均値を反映するとされています。正常値は6.0%未満です。
過去1~2カ月の平均値となるため、急激に血糖コントロールが悪くなった場合などは血糖値に比べて低くなることがあります。また、次のような病気を合併していると実際の血糖状態に比較して低値や高値になります。
| 実際の血糖状態より高めになる病態 |
鉄欠乏性貧血
軽度~中等度の慢性腎臓病
ビタミンB12・葉酸欠乏 |
| 実際の血糖状態より低めになる病態 |
溶血性貧血
活動性の出血がある場合
進行した慢性腎臓病(腎不全・透析中)
肝硬変などによる脾機能亢進 |
グリコアルブミン
HbA1cと同じように、血液中のたんぱく質の一種であるアルブミンにブドウ糖がくっついている割合です。HbA1cが過去1~2カ月の血糖値の平均を反映するのに対して、グリコアルブミンは1~2週間の血糖値の平均を反映します。治療開始早期など、急激に血糖コントロールが変わる際に有用な検査です。次のような病気を合併していると実際よりも高値や低値になります。
| 実際の血糖状態より高めになる病態 |
甲状腺機能低下症
高度な脱水状態 |
| 実際の血糖状態より低めになる病態 |
甲状腺機能亢進症
ネフローゼ症候群
肝硬変や重度の栄養不良
ステロイド治療 |
インスリン
血中のインスリン濃度(IRI)やインスリンが作られる際に生じるCペプチドという物質を血液や尿で測る検査(CPR)などがあります。血糖値と組み合わせることで、インスリン分泌能やインスリン抵抗性を計算することができます。インスリンの検査をする際は、基本的に空腹状態が望ましいです。
尿糖
個人差はありますが、血糖値が160~180mg/dL以上になると、尿の中に糖がでてきます。糖尿病の名前の由来です。血糖値を下げる薬で、あえて尿中に糖を排泄させるものもありますので、服用している薬の確認も重要です。
糖尿病の治療薬
糖尿病の治療はこの20年で大きく変わり、治療薬の種類が増えるとともに、単に血糖を下げるだけではなく、心臓や腎臓などの合併症の進行を防ぐといった「付加価値」も重要視されるようになってきました。大きく、内服薬と注射薬に分けて説明します。
内服薬
DPP-4阻害薬
食事を摂取すると、血糖値が高い時だけインスリン分泌を促す、インクレチンという消化管ホルモンが小腸から分泌されます。このインクレチンの分解を防ぐ薬剤です。血糖値が高い時だけ効果が発揮されるため、低血糖のリスクが少なく、安全性が高いことから、よく使われている糖尿病薬です。
便秘や腹部膨満感などの胃腸障害が現れることがありますが、重篤な副作用はほとんどありません。
SGLT2阻害薬
高血糖時に血液中の余分な糖分を尿中へ排泄することで血糖値を下げ、インスリン分泌に依存せずに血糖を下げることができる糖尿病薬です。尿中に糖を排泄する際に、尿の濃度を薄めるために水分も一緒に排泄するため、血糖改善に加えて、心臓や腎臓にも良い効果が期待されます。大規模臨床試験で心不全や慢性腎臓病の進行抑制効果が示されており、最近は糖尿病がない、心不全や慢性腎臓病にも適応が拡大されています。
尿量が増えることによる頻尿や脱水、尿糖が出ることによる尿路感染症・性器感染症(カンジダなど)などの副作用に注意が必要です。
ビグアナイド薬
1950年代に開発・発売された歴史の古い薬剤で、現在でも世界中で第一選択薬として用いられることが多い糖尿病薬です。肝臓や筋肉に働きかけて、インスリンの効き目を良くする=インスリン抵抗性を改善します。
腎機能が低下している方では乳酸アシドーシスという副作用を起こしやすくなるため、腎機能に注意しながら服薬する必要があります。
イメグリミン
ビグアナイド薬と似た構造式を持つ薬剤で、2021年に登場した新しい糖尿病薬です。ミトコンドリアの機能改善を通じて、ビグアナイド薬と同様のインスリン抵抗性改善効果に加えて、高血糖時のみインスリン分泌を促す効果があります。ビグアナイド薬の重要な副作用である乳酸アシドーシスのリスクが大幅に低減されており、腎機能が低下した方でも減量して用いることで安全に使用しやすい薬剤です。
吐き気や下痢・便秘などの胃腸障害が生じることがあり、特にビグアナイド薬との併用時には注意が必要です。また、効果が3~6カ月かけて発揮されるため、服薬開始当初は血糖コントロールが改善していないように見えることもあります。
SU薬
ビグアナイドと同様、1950年代から使用されている歴史のある薬剤です。膵臓のβ細胞を刺激し、強制的にインスリン分泌を促します。一日中効果が持続するため、一日1回の服薬で済みますが、食事を摂らなくてもインスリンが分泌され続けるため、低血糖に注意が必要です。また、長期間使用すると、刺激を受け続ける膵臓が疲弊してしまうため、効果が弱まることもあります。
グリニド薬
SU薬と同じく膵臓を刺激してインスリン分泌を促しますが、作用時間が短く設計されているため低血糖のリスクは減っています。その代わりに毎食直前に服薬が必要です。服薬後にすぐに食事を摂らないと低血糖のリスクが高まるので注意が必要です。
チアゾリジン薬
カロリー摂取過剰状態で生じる大型の脂肪細胞がインスリン抵抗性を引き起こします。この大型の脂肪細胞の細胞死を誘導し、インスリン抵抗性を改善する小型の脂肪細胞を増やすことで、インスリン抵抗性を改善する薬剤です。抗動脈硬化作用や、脂肪性肝炎(MASH)などに有効性が期待されます。
浮腫みや体重増加、閉経後女性における骨折リスク増加の副作用に注意が必要です。
α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)
小腸からの糖吸収を遅らせることで食後の血糖上昇を抑える薬剤です。食物線維と同様の働きで、食前に服薬することで、野菜を先に食べたような効果になります。インスリン分泌に関与しないため、単独での低血糖リスクは低いです。
糖分が大腸に流れ込むことで腸管ガスが生じやすくなるため、おならや腹部膨満感などの副作用が生じることがあります。
GLP-1受容体作動薬
胃や腸管の動きを緩やかにして満腹感を感じやすくしたり、脳の食欲中枢に働きかけて空腹感を感じにくくすることで、食事摂取量を自然と減らす薬剤です。食べ物が胃から小腸に流れ込むのを緩やかにするため、食後の血糖上昇も緩やかにします。また、インスリン分泌を促す効果もあります。
服用方法に特徴があり、起床直後に少量の水で服用し、その後30分間は飲食を避けます。空腹でないと効果を十分に発揮できないため、前日夜の食事が遅いと効果不十分となりやすいです。
副作用として吐き気や胃のむかつきなどがあり、特に服薬開始時や増量時に出やすい傾向にあります。
注射薬
速攻型/超速効型インスリン製剤
注射後にすぐに効果が現れ、数時間で作用がなくなるインスリンです。生理的に食後に分泌される「追加分泌」のインスリンを補う薬剤で、食後の血糖上昇を抑えます。
食事の直前に注射する必要があり、注射後の食事摂取が遅れると低血糖のリスクが高まるため、注意が必要です。
持効型インスリン製剤
24時間、ほぼ一定の効果が持続するインスリンです。生理的に常に分泌されている「基礎分泌」のインスリンを補う薬剤で、主に空腹時血糖値を含めた血糖値のベースラインを下げる効果があります。速効型/超速効型インスリンと組み合わせて使用することもあります。
速効型/超速効型に比べると頻度は低いですが、特に内服薬との組み合わせで低血糖のリスクに注意が必要です。
GLP-1受容体作動薬
内服薬のGLP-1受容体作動薬と同じ効果がある注射薬です。週1回の注射で済む薬剤が主流になっています。最近は肥満症や脂肪性肝炎(MASH)の治療にも用いられています。
副作用も内服薬のGLP-1受容体作動薬と同じで、注射薬ですので注射部位の発赤などもあります。
GIP/GLP-1受容体作動薬
GLP-1に加えてGIPという、インスリン分泌をより強く促す効果のある消化管ホルモンの受容体を刺激するため、GLP-1受容体作動薬よりもさらに血糖降下作用と体重減少作用が強くなっています。
最近は肥満症や閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療にも用いられています。
効果が強い分、急激な食欲低下や気分不良、吐き気などの副作用もあるため、開始時には医療機関でのしっかりとした観察が必要です。
当院では糖尿病協会認定医・動脈硬化症専門医・総合内科専門医の医師が、
個人個人のライフスタイルに適した治療内容を一緒に考えていきます。
さらに管理栄養士による栄養指導も行い、
できるだけ薬に頼らない糖尿病治療を行っていきます。