脂質異常症は血液中のコレステロールや中性脂肪が多くなったり少なくなったりする病気で、様々な異常の総称になります。コレステロールや中性脂肪はお互いに影響しあうため、生活習慣の改善や薬での治療で思うような結果が出ないことも多い、複雑な病態です。
脂質異常症は、心筋梗塞や脳梗塞といった動脈硬化症に対するリスク因子として、糖尿病や高血圧症と並んで非常に重要な病態ですので、しっかりと管理をすることが大事です。
日本動脈硬化学会より各項目の目標値が示されていますので、目標値を上回る項目がある人は、頸動脈エコーやCAVIなど動脈硬化症のスクリーニング検査をお勧めします。
リスク区分別脂質管理目標値
- 一次予防(過去に心筋梗塞や脳梗塞などを起こしていない方)
まず生活習慣の改善を行った後 薬物療法の適用を考慮します。
| リスク管理区分 |
脂質管理目標値(mg/dL) |
| LDL-C |
Non-HDL-C |
TG |
HDL-C |
| 低 |
160未満 |
190未満 |
150未満 (空腹時) 175未満 (随時) |
40 以上 |
| 中 |
140未満 |
170未満 |
| 高 |
120未満 |
150未満 |
- 二次予防(心筋梗塞や脳梗塞を起こしたことがある人)
生活習慣の是正とともに薬物治療を考慮します。
| 管理区分 |
脂質管理目標値(mg/dL) |
| LDL-C |
Non-HDL-C |
TG |
HDL-C |
| 通常 |
100未満 |
130未満 |
150未満 (空腹時) 175未満 (随時) |
40 以上 |
| 再発リスクが高い(※) |
70 未満 |
100未満 |
※「急性冠症候群」、「家族性高コレステロール血症」、「糖尿病」、「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞(明らかなアテロームを伴うその他の脳梗塞を含む)」の4病態のいずれかを合併する場合に考慮する。
参考元:日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2023年版
脂質項目の種類
普段の検査で主に測る脂質の項目は次の4種類になります。
- 総コレステロール
- HDLコレステロール
- LDLコレステロール
- 中性脂肪(トリグリセリド)
コレステロールの項目が複数ありますが、コレステロール自体の種類が違うわけではなく、コレステロールを包み込むリポタンパクの違いでHDLやLDLという冠が付きます。実は、動脈硬化の原因はコレステロールそのものではなく、リポタンパクになります。リポタンパクとは、血液中のコレステロールや脂質がタンパク質と結合した複合体です。
総コレステロール
HDLやLDLといった多種のリポタンパクに含まれるコレステロールを全て合計した数値になります。コレステロールは細胞の壁など、身体にとって必要不可欠な物質になります。したがって、血液中のコレステロールの合計ではなく、「コレステロールがどのリポタンパクに含まれているか」が重要になりますので、極端に高い数値でなければ、総コレステロールの数値だけで一喜一憂する必要はありません。
HDLコレステロール
いわゆる善玉と呼ばれるものです。血管や臓器にある「余分なコレステロール」を回収して、コレステロールをリサイクルするために肝臓に運ぶ役割をするのがHDLになります。一般的にHDLコレステロールは高いほど良く、低い方が悪いとされます。しかし、超高値(80~90以上)の場合はHDLがうまく機能していない可能性があります。
日本人は一般的にHDLコレステロールが多い人種であり、殆どの人が正常範囲です。
タバコを吸う人、糖尿病がある人、肥満体型の人などでHDLコレステロールが低いことがあります。
LDLコレステロール
いわゆる悪玉と呼ばれるものです。肝臓から血管や各臓器などにコレステロールを運ぶ役割をするのがLDLです。LDLコレステロールが多いということは、血管や各臓器にコレステロールが多く運ばれることになり、特に血管壁にコレステロールが沈着すると動脈硬化が進みます。したがって、脂質異常症の大きな治療目標がLDLコレステロールの管理になり、ガイドラインでも病態に応じて細かく目標値が決められています。
LDLの中にも種類が多数ありますが、通常の検査では全てまとめてLDLコレステロールとして測定されます。LDLの中でもさらに動脈硬化を引き起こしやすいリポタンパクがあるため、LDLの状態がどのようなものか、LDLの「質」を考えながらの治療が必要になります。
LDLコレステロールが高くなる人は、HDLが低くなる人とほぼ同じで、タバコを吸う人、糖尿病がある人、肥満体型の人などで、遺伝的にLDLコレステロールが高くなりやすい人もいます。また、女性は更年期・閉経時期にホルモンバランスが変化するため、LDLコレステロールが高くなりやすくなります。
中性脂肪(トリグリセリド)
脂質項目のなかで唯一、コレステロールの仲間ではない項目になります。トリグリセリドと表記されることもあります。コレステロールとは独立して変動し、直前の食事内容や糖尿病などの影響を大きく受けるため、管理が難しく感じやすい項目です。
コレステロール系の項目は数日の単位で変動しますが、中性脂肪は血糖と同じように数時間単位で変動します。血液検査の際に「空腹状態で来てください」と言われたことはないでしょうか?ここでいう「空腹」状態とは、8~10時間の絶食を指します。中性脂肪の代謝もおおよそ8時間ですので、前日の夕食が遅い場合や夜食を食べた翌日は中性脂肪が高くなりやすくなります。
このように中性脂肪の評価が難しかったため、2022年の動脈硬化学会のガイドライン改定時に、絶食時間を問わない(「随時」といいます)評価基準が追加されました。空腹時が150mg/dLに対して、随時は175mg/dLという基準値ですが、食事後に中性脂肪が175mg/dLを超えると心筋梗塞や脳梗塞のリスクが上がることが日本人集団で示されたためです。
中性脂肪が高くなるとなぜ心筋梗塞や脳梗塞のリスクが上がるの?
それはLDLコレステロールの項でお話しした、LDLコレステロールの「質」に関わってくるためです。血液中の中性脂肪が多くなると、LDLコレステロールの中でも動脈硬化を引き起こしやすい種類が増えるため、同じくらいのLDLコレステロール値であっても中性脂肪が高値の人の方が、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高くなります。最近はLDLコレステロールを下げた次の治療ターゲットとして注目されています。
例えば、下の表でのAさんとBさんは同じようなLDL・HDLコレステロール値ですが、中性脂肪が高いBさんの方が心筋梗塞や脳梗塞のリスクも高まります。
|
Aさん |
Bさん |
| LDLコレステロール |
120mg/dL |
116mg/dL |
| HDLコレステロール |
47mg/dL |
46mg/dL |
| 中性脂肪 |
130mg/dL |
270mg/dL |
中性脂肪の代謝は複雑で、食事や併存疾患、内服薬の影響を大きく受けます。中性脂肪だけを見て治療するのではなく、食事運動習慣や糖尿病などの生活習慣病を含めた総合的な治療が必要となります。
脂質異常症の治療
総コレステロール
総コレステロール値を目標として治療を行うことはありません。LDLコレステロールや中性脂肪の治療を行うことで、総コレステロール値が低くなってきます。
HDLコレステロール
現時点でHDLコレステロールを増やす治療薬はありません。有酸素運動や体重を適正範囲に保つこと、タバコを吸っている人は禁煙をすることが重要です。
LDLコレステロール
LDLコレステロールは特に心筋梗塞のリスク因子として古くから認識されており、治療薬が豊富です。一般的にはスタチンとエゼチミブの2種類までの治療が多く、注射薬などは遺伝性の高LDLコレステロール血症に用いられることが多いです。しかし、スタチンは筋肉痛の副作用が生じることがあり、スタチンを服用できない人も多くいます。最近、スタチンが副作用で服用できない人向けの治療薬も増えてきています。
LDLコレステロールに対する主な治療薬
| 薬剤 |
作用機序 |
注意点 |
| スタチン |
肝臓でのコレステロール合成抑制 |
筋肉痛や肝機能障害 |
| エゼチミブ |
小腸でのコレステロール吸収抑制 |
腹部症状や肝機能障害 |
| ベムペド酸 |
コレステロール合成抑制 |
尿酸値上昇や肝機能障害 |
| PCSK9阻害薬 |
肝臓でのLDL分解を促進 |
注射部位の痛み、肝機能障害 |
| ペマフィブラート |
中性脂肪を下げる薬だが、LDLコレステロールを下げる効果もある |
胆石症や肝機能障害 |
LDLコレステロールの治療としての第一選択薬はスタチンになります。LDLコレステロールを下げる力は強力ですが、筋肉痛や肝機能障害に注意が必要です。また、効果不十分な際にスタチンの服薬量を倍にしても、LDLコレステロールを下げる力は倍にならず、わずか6%ほどしか増えないことが分かっています。したがって、スタチンで効果不十分な際にはエゼチミブと組み合わせることが多いです。
エゼチミブは小腸からのコレステロール吸収を抑制し、材料を減らすことでLDLコレステロールを減らします。大きな副作用はないものの、LDLコレステロールを下げる効果はスタチンに比較すると弱くなります。
ベムペド酸はスタチンと同じような作用機序ですが、筋肉痛が起きにくくなるように設計されています。一方で、尿酸値が上がる副作用に注意が必要です。
ペマフィブラートは中性脂肪を下げる薬ですが、「中性脂肪が正常でLDLコレステロールが高値だが、スタチンが副作用などのため使用できない」患者に対して適用されます。スタチンで筋肉痛を生じる患者さんは意外と多く、新たな治療薬として期待されます。
PCSK9阻害薬は注射薬で、スタチンよりも強力なLDLコレステロール低下作用があります。主に遺伝性の高LDLコレステロール血症の患者さんや、心筋梗塞を起こした後の再発予防の患者さんなど、限られた患者さんに使用されています。
中性脂肪
中性脂肪の代謝は上で話したように複雑ですが、治療薬としては肝臓で中性脂肪が作られるのを抑制するものになります。
中性脂肪に対する主な治療薬
| 薬剤 |
作用機序 |
注意点 |
| フィブラート |
肝臓での中性脂肪合成抑制 |
筋肉痛や胆石症、特にスタチンとの併用は注意が必要 |
| ペマフィブラート |
フィブラートよりも中性脂肪合成抑制作用や中性脂肪の代謝促進作用が強い |
胆石症や肝機能障害 |
| ω3系多価不飽和脂肪酸 |
肝臓での中性脂肪合成抑制 |
消化器症状、出血傾向 |
中性脂肪の治療薬はフィブラート系薬が主でしたが、特にスタチンとの併用や腎機能が低下している患者さんでは筋肉痛が生じやすく、継続が難しいこともありました。フィブラートの作用を、より中性脂肪の合成抑制に特化させたペマフィブラートはスタチンとの併用時にも筋肉痛の副作用が生じにくく、腎機能低下のリスクも減っています。中性脂肪を下げる効果も強く、中性脂肪に対する第一選択薬になりつつあります。ペマフィブラートを服用すると胆石ができやすくなるため、内服開始時に腹部エコーで胆石がないことを確認する必要があります。
ω3系多価不飽和脂肪酸は主にEPAやDHAといった、いわゆる青魚の脂になります。中性脂肪の合成を抑制するほか、血液をサラサラにし、炎症を鎮める効果があるとされます。フィブラートに比較すると中性脂肪を下げる効果は弱めですが、血液をサラサラにする作用があるため、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを下げる目的で使用されることもあります。
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